不倫相手の反論:既婚者じゃないと思っていた

不倫相手との問題

慰謝料請求

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 不倫相手が,お付き合いしている人間を独身者であると勘違いしていたケースや,結婚はしているが既に夫婦関係が破綻していると思っていたというケースにおいて,その不倫相手は,責任を免れることができるのか,また,その各事情は慰謝料の金額に影響を及ぼすのか。

 実は,この点が実務上,不倫相手から出てくる反論の中で最も多いものとなっております。通常,不倫をする人間は,不倫相手に対して,「結婚していない」と嘘をつくか,結婚しているけれども「うちの夫婦はうまくいっていない」などと説明をしたうえで不倫関係を求めてくるものでしょうから,このような反論は発生しやすいものとなっております。

結婚していないと信じていたという反論

 まず,不倫が不法行為となるためには,不倫につき,不倫相手の故意又は過失が認められる必要があります。

 故意とは,ある事実を知っていること,過失とは,ある事実を知らないが注意をすればその事実に気づける状態であったことを意味します。

 とすれば,不貞相手から見れば,その交際相手が結婚していないと信じ,さらに様々な周辺事情から,通常結婚しているとは気付けない(疑うことができない)レベルにあるという場合には,故意はもちろん,過失もなかったと判断され,賠償責任を負わなくて済むということになります。

 ただし,交際相手が他の第三者と結婚している以上,毎日泊まりに来られないのはもちろん,ともに過ごす時間にも制限があるなど(土日はNG等),不貞相手から見れば,疑うべき事情が散見されるケースも多いでしょう。

 そして,不倫相手に「過失」がある,つまり,不倫相手が注意すれば結婚していることに気付けたと評価されるケースでは,不倫相手には「故意」のケースと同様に慰謝料等の賠償責任が負わされることになります。

 もっとも,この「過失」のケースでは,交際相手が結婚していることを不倫相手が明確に認識している「故意」のケースと比較すると,その慰謝料の金額が低くなるケースが多いようです。不倫相手の認識が不十分なことが,慰謝料の一種の減額要素となるわけです。

夫婦関係が破綻していると信じていたという反論

 夫婦関係が破綻していると信じていたというケースも,基本的には上記と同様で,不倫相手から見れば,その交際相手が結婚していることは知っているものの,その夫婦関係が破綻していると信じ,さらに様々な周辺事情から,そう信じることがやむを得ないと判断されるような場合には,故意はもちろん,過失もなかったと判断され,賠償責任を負わなくて済むということになります。

 しかし,「結婚していないと信じていた」というケースと比較しても,「夫婦関係が破綻していると信じていた」というケースにおいては,結婚していること自体は不倫相手も知っているのであるから,そうであれば,夫婦関係がうまくいっているのではないかと疑うべきという価値判断が強くなり,過失がない(=不倫相手が賠償責任を負わない)と判断されるケースは極めて稀といえるでしょう。

 そして,不倫相手に「過失」がある,つまり,不倫相手が注意すれば夫婦生活が破綻していないことに気付けたと評価されるケースでは,不倫相手には「故意」のケースと同様に慰謝料等の賠償責任が負わされることになりますが,上記と同様,「故意」のケースよりも慰謝料の金額は減額されることになると考えられます。

裁判例

 これらに関連する裁判例としては,東京地判平成25年12月17日があります。この裁判例は「被告は,A(配偶者)から,長期間にわたって原告との不和が続いていた旨を聞かされたこと,Aが心筋梗塞を患ったことから,Aに対して同情の念を抱いた旨主張し,その旨の供述をする。しかしながら,婚姻関係にある一方当事者が,異性に対して自らの家庭が不和であることを告げたとしても,そのことが真実であるとは限らないのであり,被告が,そのようなAの言い分を無批判に受け入れたということもにわかには信用できない。被告の供述する上記事情ないし経緯は,原告に対する損害賠償額の算定に当たって考慮する一事情にとどまるというべきである。」と判断し,被告の責任を認めながらも,被告側の認識が慰謝料の減額要素となりうる旨を述べております。

 また,東京地判平成26年3月17日は「被告は,A(配偶者)から,原告が金銭トラブルを抱えており,少なからぬ額の借金があることなどから夫婦仲は不和となっている旨告げられたり,平成20年8月ないし同年10月頃には原告とは離婚して,被告と結婚したいなどとも言われていたことがうかがわれ,被告はAの言を受けて,原告・A夫婦の関係が必ずしも円満でないとの認識を有していたものと認められる」として,被告の責任を認めながらも,その認識を慰謝料の減額要素として考慮しております。

まとめ

  以上から,不貞相手から「独身者だと思っていた」「夫婦関係は既に破綻していると思っていた」などの弁解がなされる場合,裁判例上,少なくとも過失はあると認められることになり被告(不倫相手)は賠償責任を負いますが,そうした不貞相手の認識は慰謝料の減額要素となる場合が多いということになります。不倫相手の認識により,その非難の程度が異なってくることは当然のことといえるでしょう。

 なお,不貞相手の認識という点に関連しますが,不貞相手が不貞開始の時点では交際相手が既婚者であることを過失なく知らなかったが,不貞関係の途中から交際相手が既婚者であると気づいた場合,気付いた後もその不貞関係(不貞行為)を継続するのであれば,その後の行為については不法行為が成立することになります。他方で,その気付いた時点で,既婚の交際相手との関係を終了させれば,不法行為は成立しないことになります。

 

 今回は,実務上よく見られる「Aは独身者だと思っていた」「Aの夫婦関係は既に破綻していると思っていた」との反論について検討しましたが,実際の事案では,その周辺事情を踏まえて結論が出されるところですので,何か疑問に思うことがありましたら,専門の弁護士にご相談されることをオススメ致します。

 

 

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