夫婦が不仲だと取れる慰謝料も少ない?

不倫相手との問題

慰謝料請求

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 今回は,夫婦が不仲な状態でその片方が不貞行為をした場合,その不貞相手に請求できる慰謝料の金額が減るのか,また,夫婦間に子供がいるのといないのとでは不貞をした際に不貞相手に請求できる金額が変わるのか,また,不倫している夫が妻に生活費を支払わないような場合,慰謝料の金額に影響があるかなどという点をご説明したいと思います。

 

夫婦間の不仲,破綻

 

 不倫(不貞)が行われた当時,一緒に暮らしているものの,ほとんど口を聞かないなど,婚姻関係が既に悪化していた場合には,不貞相手に請求できる慰謝料の金額は少なくなるのでしょうか。

 まず,婚姻関係が完全に「破綻」している場合には,そもそも不法行為が成立しないことになります。なぜなら,不倫(不貞)の場合の保護法益は「婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する権利」と考えられているところ,「破綻」の場合には,その保護すべき権利が存在しないといえるからです。そのため,不倫(不貞)の慰謝料請求の実際事案でも,不貞行為当時に,婚姻関係は既に破綻していたとの反論(弁解)がされることがよくあります。しかし,裁判所はその「破綻」の認定は慎重であり,まず「破綻」という認定はされません。

 よく考えてみれば,それはそうですよね。不倫をする場合,不倫相手には通常,嘘でも「うちの夫婦はうまくいっていない」などと説明するでしょうから,不倫相手からの反論としては「破綻していると思っていた」というのが多くなるでしょう。もっとも,そのような反論が簡単に通ってしまっては,不倫の事案の慰謝料請求が極めて困難になってしまうため,「破綻」の認定は慎重にならざるをえないでしょう。

 ですので,一般的に,夫婦関係の悪化,破綻寸前といったような状況は,不法行為責任を認めた上で,慰謝料の減額要素として考慮されることが多いです。

 なお,これに関連して,たとえば,夫に慰謝料を請求している妻にも不倫相手がいるような場合には,婚姻関係が円満ではなかったとして,慰謝料の減額要素として考慮されることになり,裁判例においても,そのように判断されています(東京地判平成24年7月31日「原告自身,A(妻)に対する不貞行為を行っており,Aがこれを許したと言っても,原告の同行為によるAの心痛もまた大きかったと推認されるのであり,これによるAの原告に対する不満や不信がAと被告との不貞行為につながったことは容易に推認される」)。

 

子どもの有無

 

 夫婦間に子どもがいるかいないかで不貞に基づく慰謝料の金額は変わるのか。不倫(不貞)相手に夢中になってしまい,家庭を顧みず,子どもを蔑ろにしているようなケースもありますが,そういった事情は慰謝料を増額する要素になるのでしょうか。

 結論からすると一般的に,夫婦間に幼い子どもがいることは慰謝料の増額要素となることが多いです。

 たとえば,東京地判平成15年9月8日は「原告とAとの間にも長女が誕生していて,夫及び父親としてのAの存在を必要としているのに,被告がこれを妨害している」とし,東京地判平成21年6月22日は「原告とAとの間で6歳と1歳の二人の子供をもうけていたことに鑑みると,突然に離婚を求められる事態になったことにより原告の受けた精神的苦痛は相当に大きい」としており,同種の裁判例は数多くあります。

 また,一般的に,夫婦が離婚した場合,子どもの親権者は母親と決まることが多いですが,夫側が子どもと一緒に暮らせなくなったことを踏まえ,「原告はA(妻)を失うとともに,同人との間にできた未成年の2人の子とともに家庭生活を営むことができなくなった。これにより,原告の受けた精神的苦痛は大きい。」と判示した裁判例もあります(岐阜地判平成26年1月20日)。

 他方で,子の存在を増額要素としている裁判例とは逆に,夫婦間に子どもがいないことや子どもが既に成人していることなどを慰謝料の減額要素としている裁判例も散見されます(東京地判平成22年2月3日「原告とAとの間に子がいないこと」,東京地判平成21年6月17日「原告とAとの間には2人の子がいるが,いずれも既に成人して独立していること」等)。

 これらからすると,夫婦間に未成年の子がいるかどうかという点は,慰謝料算定における極めて重要な要素といえるでしょう。

 

不倫している夫が妻に生活費を支払わなくなった場合

 

 たとえば,夫が会社員,妻が専業主婦(あるいはパート)という夫婦において,夫が不倫をし,不倫相手に夢中になってそちらにお金を使うあまり,家庭に全然お金を入れなくなったという場合,そうした事情は慰謝料の増額要素となるのでしょうか。

 これについては,その失われた生活費を返せ,ということはできないでしょうが,不倫が原因で生活費が入れられなくなったため,精神的苦痛が増大したとはいえるのではないかと思われます。すなわち,不倫が原因で生活費が渡されなくなったことは慰謝料の増額要素となりうると考えられます。

 上記と同様の事案で,夫及び不倫相手を訴えたケースにおいて,「被告1(夫)は,被告2(不倫相手)との不貞関係が深まるにつれて,原告や原告との間でもうけた2人の子ののもとへ帰宅することが少なくなり,しかも,その間,原告に対して十分な生活費等を渡さなかったというのであって,原告が長年にわたって精神的に極めて辛い日々を送り,また,その間の経済的困窮も著しいものであったことは,想像に難くない。」として慰謝料の増額要素としている裁判例があります(東京地判平成21年4月8日)。

 

まとめ

 

上記のような各要素は,それが一つあるから慰謝料が20万円上がるというわけではなく,そうした事情を総合考慮して判断されることにはなりますが,一般的には増額要素が多くある方が高額の慰謝料にはなると思われますので,事情を細かく整理することは重要かと思われます。

ケースによって様々な事情があるでしょうから,どういった事情が慰謝料算定に影響するかについては一度弁護士に相談してみることをおすすめします。

 

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