心療内科に通った治療費も請求できる?
不倫相手との問題
慰謝料請求
今回は,配偶者(妻or夫)に不貞された場合,どのようなものを損害として請求できるのか,についてお話いたします。
慰謝料
不貞による損害の典型例は,まず慰謝料でしょう。
ただ,これは、説明を始めるとかなり長くなってしまうので,また改めてご説明させていただきます。
治療費
自分の妻又は夫が不倫(不貞)をしていると知って,不眠症やうつ病になった場合には,その治療費を損害として請求できるのでしょうか。
不倫(不貞)を知り,精神的にストレスを受けて病院に通うことになったのですから,当然,その治療費も損害として請求できそうです。
この点,裁判例においても,「原告は,A(配偶者)の書き込んだブログをインターネットの閲覧履歴から偶然発見し,Aを詰問したところ,Aが被告との不貞関係を認めるに至ったこと,原告は,これによりショックを受け,家事ができなくなり,不眠症に陥り,自傷行為をするようになり,見かねたAに連れられて心療内科を訪れ,以後通院を継続し,「解離性障害を合併するうつ状態」との診断を受け,さらに,○○病院を受診したこと,原告が上記通院の際に治療費等…,処方された薬代等…,通院のためのバス代…をそれぞれ支出したことが認められ,(それら)は,本件不法行為と因果関係のある原告の損害と認めるのが相当である。」として,肯定されたケースもあります(東京地判平成20年10月3日)。
しかし,実際には,その症状が,本当に不倫(不貞)を原因として発生したものなのかどうかという因果関係の点が問題になることが多く,この点(不貞との因果関係)の立証が難しいケースが多いように感じられます。特に精神的な病気は,様々な要因が関係していることが多く,不倫(不貞)だけが原因であったと認定しづらいといえるでしょう。
もっとも,配偶者の不倫(不貞)で、精神的にストレスを受け、病院に通ったような場合には,その診断書、治療費などの領収書を証拠として提出するのは有効です。それにより,「治療費」という独立の損害が認められなくても,慰謝料の増額事由になる可能性があるからです。
裁判例においても,「原告の主張する治療関係費については,原告のうつ病の罹患が被告の不法行為によるものかAの自殺自体によるものか判然としないことから,独立の損害として認めるのではなくその支出を慰謝料の一事由として斟酌するのが相当というべき」とされているものがあります(東京地判平成22年7月14日)。
仕事を休んだ間の給料分
では,自分の妻あるいは夫が不倫(不貞)をしていると知って,精神的ショックを受け,それが原因で勤めている会社を休む,あるいは辞めることになった場合,それら(給料の減額分や会社を辞めることになった慰謝料)を損害として請求できるのでしょうか。
全体として,この点も不倫(不貞)との因果関係が認められにくいといえます。
基本的には,不倫(不貞)を知る→精神的な病気になる→仕事を休む(辞める)という流れですから,医療費以上に因果関係は認められづらいと思われます。
実際,裁判例においても「原告は,被告の不法行為により,仕事を辞めるなどの経済的損害を被った旨を主張する。…しかしながら,その間(原告がうつ病になり,休職している間),Aが長男を連れて別居し,原告は,AからDV関係の申立てや婚姻費用分担を求める審判の申立てを受け,それらへの対応を余儀なくされ,さらに長男と会えなかったことが原告の症状を悪化させているものと考えられるところ(診断書には「平成21年10月頃より息子さんと会えなくなったことよりうつ状態が増悪」との記載がある。),それらは,被告の不法行為に基づくものではなく,妻であるAとの間の紛争に基づくものというべきであって,被告の不法行為との間に相当因果関係を認めることはできない。」などとして否定されています(東京地判平成23年6月16日)。
他方で,病気ではなく,不倫相手と妻が外泊しないように見張る(調査する)ために仕事を数日休んだようなケースでは,「原告は6日間欠勤しており,本件事実関係によれば,この欠勤は被告のA同伴外泊による善後策等のためと考えることができたから,これにより失った利益もまた被告の不法行為に起因する損害とすべきである」としているものがあります(大阪地判昭和39年6月29日)。もっとも,これはかなり特殊なケースといえるでしょう。
仕事をやめることになった場合も基本的に,裁判所は不倫(不貞)との因果関係を認めておりません(東京地判平成20年10月8日,東京地判平成22年7月28日等)。
まとめ
以上からすると,治療費や休業損害などは,因果関係の立証が困難で,基本的に不倫(不貞)により発生した損害としては認められる可能性は低いといえます。もっとも,特に医療費に関していえば,その点の主張・立証(診断書・領収書)をすることで,慰謝料の増額要素となる余地はあるといえます。
したがって,弁護士などに相談する際には,ご自身でこれは関係ないと判断せずに,不倫(不貞)の事実を知って生じた事実(影響を受けたこと)を全て伝えた方が良いと思われます。
長くなりましたので,他の損害項目については,また次回以降にお話しすることといたします。