有名人やお金持ちは払う慰謝料も高い?

不倫相手との問題

慰謝料請求

Pocket
LINEで送る

 今回は,どのような要素があると不貞行為による慰謝料が高くなったり,低くなったりするのかについて,ご説明致します。

 特に,有名人やお金持ちが不倫をした場合,払わなければならない慰謝料も高額になるのか?夫婦関係が長く継続した後の不倫は,慰謝料が高いのか?という点に着目してご説明させていただきます。

 

はじめに

 

 不貞行為について不法行為が成立し,損害賠償請求(慰謝料請求)が認められるとして,その金額をどのように算定するのでしょうか。また,裁判などにおいては,どのような点が考慮されるのでしょうか。

 なお,ここで取り上げるのは,あくまで裁判となった場合(あるいは,それを見越して交渉をする場合)に考慮される要素ですので,当事者間で合意すれば,そうした要素に関係ない慰謝料額(例えば,有名人等であれば何も増額要素がないケースで数千万円,数億円等の慰謝料など)になることもあります。

 

当事者の社会的地位・収入・職業

 

 まず,不倫(不貞)を行った人が,社会的に地位がある人であったり,お金持ちである場合には慰謝料額が高額になったりするのでしょうか。

 この点は,よく誤解している人がいますが,結論から言えば,原則として,社会的地位や収入状況などは慰謝料の算定要素にはなりません。すなわち,社会的地位があろうと収入が多かろうと,それだけで慰謝料が上がるということはまずありません。

 これは,よく芸能人などが高額の慰謝料(数億円,数千万円など)を払っていることから誤解されているのだと思いますが,それは当事者が大ごとにするのを避けるために任意で支払っているに過ぎず,仮に裁判になればそのような金額は認められません。

 実際,裁判所も,慰謝料の算定にあたって,こうした事情はまず考慮しておりません(東京地判平成23年12月28日「原告は,慰謝料額の算定において被告の現在の役職(社会的地位の高さ)や財力を考慮すべきであると主張するが,これらの被告の属性に関する一般的事情は,上記不法行為により原告に生じた精神的損害とは無関係であるから,慰謝料額の算定において考慮することはできない。」)。

 もっとも,ごく稀に当事者の職業が慰謝料の増額要素とされることもあります。

 たとえば,弁護士とその元依頼者との不倫(不貞)のケースにおいて,「被告は,平成6年の離婚交渉後もA子に好意をもち,個人的にサポートするなど,その不満の相談にも乗っていたところ,A子の心が原告から離れていく過程で,親密な関係になっていったものと認められる。婚姻関係の破綻については原告自身の問題点もあるにせよ,被告は,ひとたびは原告の紹介で民事保全事件,訴訟事件を受任するなどしており,その信頼を裏切る行為といわざるを得ない。」などと考慮されています(東京地判平成19年2月27日)。これは,不倫(不貞)によって,原告の信頼を害する程度が,弁護士という職業であるがゆえに大きいということなのでしょう。

このケース以外には,精神科医とその患者との不倫(不貞)のケース(東京地判平成13年8月30日),弁護士とその元依頼者との不倫(不貞)のケース(東京地判平成19年2月27日),プロ騎手・タレントのケース(東京地判平成21年10月21日)などがありますが,いずれにしても,不貞行為を行った側の職業や社会的地位が慰謝料算定の基礎とされることは極めて希であるといえます。

 

婚姻関係の長短

 

 では,婚姻期間の長さは慰謝料の算定・考慮要素になるのでしょうか。

 一般的に,婚姻期間が短いと慰謝料の減額要素になり婚姻期間が長いと慰謝料の増額要素になると言われています。

すなわち,結婚後すぐに不倫(不貞)されるケースよりも,長年連れ添った妻・夫に裏切られるケースの方が,慰謝料は大きくなるということです。

この点,結婚してすぐ,というのは愛情も一番大きいでしょうし,その幸せな時期に裏切られるというのは,それはそれで相当な精神的ショックを受けるものであることは間違いありません。

ですが,不倫(不貞)の場合の保護法益は「婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する権利」であると考えられているようですので,それを前提とすると,婚姻期間が長い場合にはその長年平穏に過ごしてきた家庭を壊されるわけで,権利侵害の度合いが大きい(精神的苦痛が大きい=慰謝料の増額要素),という理解になるのだと思われます。

そして,具体的には,婚姻期間が3年以下の場合には「短い」と判断され,慰謝料の減額要素とされることが多いようです(東京地判平成20年10月3日「本件不貞行為が開始された当時,原告とAの婚姻関係が約2年半程度にすぎなかった」,東京地方裁判所平成21年3月27日(3年),東京地判平成23年2月24日(1年9カ月))。

他方で,婚姻期間が15年を超える様な場合には,「長い」と判断され,慰謝料の増額要素とされることが多いようです(東京地判平成16年2月19日「Aとの約19年に及ぶ婚姻関係の破綻を余儀なくされた原告の精神的苦痛は想像に難くない」,東京地判平成24年3月29日(15年),東京地判平成19年10月17日(20年))。

 

まとめ

 

 まず,当事者の社会的地位・収入・職業は一部の特殊なケースを除き,基本的には慰謝料の算定・考慮事情にはなりません。この点は,よく誤解されている方がいるので注意が必要です。

 また,婚姻期間の長短という点については,婚姻期間が長い場合の方がその権利侵害の度合いが大きいとして,慰謝料の増額要素となる点にも注目です。

 

 他にも慰謝料の算定の基礎とすべき項目が多々ありますので,気になることがございましたら,専門の弁護士に相談されることをおすすめ致します。

 

 

 

Pocket
LINEで送る

メールフォームへ

メールフォームへ

人気の記事

おすすめの記事

伊倉総合法律事務所リンク