「別れたくない」不貞相手による嫌がらせ

不倫相手との問題

慰謝料請求

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不貞関係にある二人は,様々な事情により,その関係を解消する場合があります。気持ちが冷めたとき,妻や夫にバレたときなどなど,その理由は様々です。

そして,不貞関係にある二人のうち,どちらかが関係を解消しようとした場合,関係解消を望まない方が他方に対して嫌がらせ等を行うということが往々にしてあります。

そうした嫌がらせ等は,慰謝料請求においてどのように考慮されるのでしょうか。

 

以下で分かりやすく説明するため,登場人物を以下のように表記します。

 

 原告A-配偶者B-不貞相手C(-不貞相手の配偶者D)

  ※原告Aが,その配偶者Bの不貞に気付き,不貞相手であるCに対して,

   慰謝料請求をするという場面を想定

 

①不貞相手Cの配偶者Bに対する嫌がらせ等

 

配偶者Bが不貞相手Cに関係解消を求めた場合(理由は気持ちが冷めた,原告Aにバレた等),不貞相手Cが別れたくないと言いだし,あげくの果てには嫌がらせを始めるケースもなくはありません。

そして,原告Aとしては,より早く不貞関係を解消してほしいでしょうから,こうした不貞相手Cの行動は,原告Aの精神的苦痛を大きくするものといえるでしょう。そのため,配偶者Bへの嫌がらせ等が慰謝料の増額要素となる場合もあると考えられます。

東京地判平成21年3月18日は,不貞相手Cは,交際を続けるうち,配偶者Bと原告Aの離婚を望むようになり,配偶者Bが長男のことを心配することに対し苛立ち,情緒が安定しない状態となり,平成19年5月ころから「死にたい」などと言うようになった。平成19年6月3日,不貞相手Cは自殺未遂を図った。その際,不貞相手Cから配偶者Bに「薬を飲んだ」と電話したことから,配偶者Bが不貞相手Cの自宅に駆けつけ,不貞相手Cの前夫Dと対面し,不倫が公になった。不貞相手Cは,命を取り留め,前夫Dの保護のもとに入ったが,その後も配偶者Bに自殺を示唆するメールや電話を送り,「あなたの嫌がることをしてあげるから,待っててね」,「法に触れない程度に嫌がらせする。子供の学校にビラを撒く」などと言ってきた。配偶者Bは,同年6月19日,原告Aに不貞相手Cのことを初めて話し,原告Aは不安と怒りで混乱する状態になった。同年7月9日,不貞相手CがBの勤務中に職場に電話を架けてきて,Bの上司に不倫を暴露し,Bに対し,「あなたの子供にいやがらせしてあげる」などと述べた。同日,配偶者BがDに連絡をとり,不貞相手Cからのメールや電話はなくなった。しかし,原告Aは,不貞相手Cが実際に長男に何かするのではないかと思い,長男の通う小学校等に連絡をし,通勤時間を変更するなどした。原告Aは,この一連の配偶者Bと不貞相手Cの問題により,配偶者Bとの婚姻関係を継続することができなくなり,配偶者Bに対し,離婚調停を申し立てた(本件口頭弁論終結時において離婚は成立していない。)。本件の事情からすると,不貞相手Cの不貞とその後の言動により,原告Aと配偶者Bの夫婦関係は破綻し,原告Aが多大な精神的苦痛を受けたことが認められると認定し,配偶者Bへの嫌がらせ行為を原告Aの慰謝料の増額要素として考慮しました。

 

②配偶者Bから不貞相手Cに対する暴力・嫌がらせ等

 

上のケースとは逆に,不貞相手Cが関係の解消を望んでいるにもかかわらず,配偶者Bが別れたくないとして,不貞相手Cに嫌がらせを行う場合もあります。不貞相手Cが関係の解消を望むケースとしては,不貞であることは認識していたが途中でもう止めたい(理由は,気持ちが冷めた,あるいは不貞相手Cの配偶者Dに知られた等)と思ったケースと,そもそも配偶者Bが既婚者であることを知らず,途中で気づいて関係を解消しようとするケースなどがあります。

不貞相手Cが不貞であることを認識していたが途中でもう止めたいと思ったケースで,配偶者Bからの嫌がらせを受け,関係を解消できなかったという場合には,原告Aの慰謝料の減額要素として考慮されることがあるようです。

例えば,東京地判平成24年6月19日は,不貞相手Cが,平成19年11月16日から平成22年6月1日までの間,配偶者Bとの間で性的関係を継続したのは,配偶者Bから,同関係を継続するよう懇願されたり脅迫的言辞を用いられたりしたためであるという面もあること,不貞相手Cは,配偶者Bから,勤務先への来訪,自宅周辺での待ち伏せ,携帯電話等への執拗な架電といった被害を受けており,精神的にも相当疲弊していたこと(などがある)」として,原告Aの慰謝料の減額要素として考慮されています。

他方で,配偶者Bが既婚者であることに途中で気づいて関係を解消しようとしたが,関係解消を望まない配偶者Bから嫌がらせ等を受けて不貞行為を継続してしまったケースでは,不法行為の成立自体が認められない場合があるようです。

例えば,東京地判平成21年9月25日において,不貞相手Cは,配偶者Bが原告Aと結婚したことを秘して,平成18年4月終わりころ不貞相手Cに交際を求めたこと,同年6月に配偶者Bが不貞相手Cから問いつめられて結婚していることを認めたこと,そのため不貞相手Cが交際の誘いに応じなかったこと,同年6月29日ころには配偶者Bと原告Aとの婚姻関係が配偶者Bの借金問題等から破綻状態にあり離婚届が両名により作成されたこと,そのころ配偶者Bが不貞相手Cに対し配偶者B及び原告Aの署名捺印のある離婚届の写メールを見せかつカードローン等の金銭問題で夫婦関係がうまくゆかず婚姻関係が破綻していて離婚する話になっていると告げたこと,そのため不貞相手Cが離婚の話を本当であると信じたこと,配偶者Bが交際を迫るため不貞相手c宅のインターフォンを鳴らし続けたり,同年8月には不貞相手C宅の近くにマンスリーアパートを借りて住んだり,不貞相手c宅で包丁を突き立てて暴れるなどして不貞相手cを恐怖に陥れたこと,Cの配偶者Dが同年11月にC宅から退去して別居すると配偶者Bがたびたび不貞相手c宅に押しかけいやがらせをエスカレートさせてインターフォンを鳴らし続けたりドアを叩いたり寝室の窓を物干し竿で叩いて不貞相手Cが起きるまで続けるなどし,さらには破壊的な他傷自傷行為に及ぶなどにより不貞相手Cの抵抗を奪い不貞相手Cを妊娠させたこと,不貞相手cが妊娠中絶手術に及んだことが認められるから,不貞相手Cの配偶者Bとの関係は,当初は配偶者Bの欺罔的行為により後には暴力的脅迫的な行為により形成されたもので,当該関係における不貞相手Cの行為が原告Aの婚姻関係を破綻させるものであるとか原告Aの権利を侵害する違法なものであったとは認められないとしました。

また,東京地判平成22年6月11日においては,不貞相手Cが配偶者Bと原告Aの婚姻継続の事実を知った後については,不貞相手Cは,配偶者Bとの関係を断ち切ろうと努力していたのであって,配偶者Bと性交渉を伴う関係が続いたのは,配偶者Bが不貞相手C又はその家族に対して執拗に暴行や脅迫を続け,また不貞相手Cの勤務先に対しても電話をし,又は訪問するなどして,脅迫,営業妨害等の嫌がらせを継続したため,やむを得ないことであったと見るのが相当である。また,不貞相手C本人は,配偶者Bが原告Aと婚姻関係にあることを知った後の配偶者Bとの肉体関係は,配偶者Bに強要されてのものであって,合意に基づくものではないと供述しているところ,その供述は信用することができる。不貞相手Cのように職業を持ち,弁護士に相談することができる立場にある女性であったとしても,自己又は娘の生命,身体,財産等に対する攻撃や自己の職業生活の基盤となっている勤務先に対する攻撃にさらされた場合に,完全な抵抗をすることができずに,攻撃者との関係を受け入れてしまう可能性があるのは,ことさら不自然なことではなく,当該攻撃者に配偶者が在るときであっても,これにより当該攻撃者との不貞行為が当該配偶者に対する違法な侵害行為になることはないというべきである。そうすると,配偶者Bと原告Aとの婚姻の事実を知った後の配偶者Bとの関係においても,不貞相手Cの行為が原告Aに対する不法行為を構成することはないというべきであると判断しております。

 

まとめ

 

以上からすると,配偶者Bと不貞相手Cとの関係性によっては,どちらかが望まない関係を強いられていたりする場合もあり,そのことが慰謝料請求の判断に大きな影響を与えるものであることは間違えないようです。

このあたり,感情的になりがちな場面ではありますが,弁護士等に相談し,冷静に対応しないと,後で大きく損をするということもありうるので,ご注意ください。

 

 

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