どこからが不倫?手を繋いだだけで不倫?
不倫・浮気とは?
不貞行為・違法行為
パートナーが不倫した場合,不法行為になり,損害賠償請求(慰謝料請求)ができますが,全ての不倫が不法行為となるわけではありません。
一概に不倫といっても様々なケースがあります。
例えば,独身だと聞いており,将来結婚しようと話をして付き合っていた男性が,その後実は既婚者であることが判明したというケースはどうでしょう。その奥さんから見れば,不倫と言われてしまいそうですが,この場合も,不法行為となるのでしょうか。
また,夫婦関係が冷え切り,別居して10年近く経っており,全くと言っていいほど連絡を取っていないような夫婦の一方(妻)が他の男性と交際し始めた場合,夫は「俺の大事な嫁に手を出しやがって」と,その男性に慰謝料請求できるのでしょうか。
このように,外観上は不倫と見える場合でも,ケースによって事情はさまざまです。
そこで,今回は,どのような場合であれば(どのような事情があれば)不法行為となるのかについてお話していこうと思います。
不法行為成立の要件
不法行為とは,「故意または過失によって他人の権利・利益などを侵害した者は、この侵害行為(不法行為)によって生じた損害を賠償する責任を負う」というものですが,この不法行為が成立するための法律上の要件は次のとおりです。
①権利・利益の侵害
②損害の発生
③①と②の間の因果関係
④故意・過失
(⑤責任能力があること)
不法行為が成立するためには,これらを満たす必要があるわけですが,不倫(不貞)の場合には,どのような事実がこれにあたるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
①権利・利益の侵害とは
不倫事案における「権利・利益」については,「貞操請求権」と「婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する権利」の考え方がありますが,ここでは主に後者の考え方を念頭に置くことにしましょう。
次に「侵害(行為)」ですが,前回ご説明したように,法律上,「不貞行為」の典型的な行為は,性行為・肉体関係であり,これが侵害行為になることは明らかです。
では,性行為・肉体関係がないと,「侵害行為」とはいえないのでしょうか。
何が侵害行為であるかは,“何が侵害されるのか”,すなわち,先ほどお話した「権利・利益」から考えることになります。
そうすると,婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する権利が「権利・利益」であるならば,「侵害行為」は婚姻共同生活の維持を妨げるような行為と考えるべきでしょう。少しわかりづらいですが,言い変えると,夫婦として(平穏に)生活を共にしていくことを妨げる行為のことです。
実際,裁判例も「第三者が相手配偶者と肉体関係を結んだことが違法性を認めるための絶対的要件とはいえない」と述べておりますし(東京地判平成17年11月15日),「被告(不倫相手)は,A(配偶者)との間で,婚姻を約束して交際し,Aに対し,原告との別居及び離婚を要求し,キスをしたことが認められ,これらの事実は,・・・原告に対する不法行為を構成するというべきである」として,肉体関係がなくても「侵害行為がある」と判断している裁判例もあります(東京地判平成20年12月5日)。
では,裁判例上は,具体的にどのような行為が侵害行為,すなわち“婚姻共同生活の維持を妨げるような行為”と判断しているのでしょうか。
具体的にみていきましょう。
以下,不倫(不貞)相手をX,夫婦のうち,不倫をされた側(慰謝料を請求する側)をA,不倫をした側をBとしてお話します。
1.ホテルにおいて裸で抱き合うこと ○
これはかなり特殊な事例ではありますが,持病の糖尿病のために性的不能であったXが,Bとホテルにおいて裸で抱き合うなどしたケースです。
このケースにおいて,裁判所は,性行為には至らなかったとしても,そのような行為は,原告の婚姻共同生活の平和維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものとしています(東京地判平成25年5月14日)。
これは当然といえるでしょう。
2.手を繋いで歩くこと △
これについては,肯定している裁判例,否定している裁判例,いずれもあります。
まず,肯定例ですが,「狭い一室に男女が数日間にわたり同宿し,戸外に出た際には体を密着させて手をつないで歩いていたこと等からして,XとBとの間には肉体関係があったと認めるのが相当」とされています(東京地判平成17年11月15日)。
他方,否定例は「Aは,関係者の目撃情報をいうが,仮に,関係者の目撃したBと一緒にいた女性がすべてXであり,Aの主張するようにBがその女性と手をつないでいたとしても,そのことから当然に不貞関係の存在が推認されるものではない」とされています(東京地判平成20年10月2日)。
これらの裁判例を見ると,いずれも結局は肉体関係(後者は「不貞関係」としていますが,これは肉体関係を指しています)の有無を問題としており,それがあったかどうかの推認の要素として「手を繋ぐ」という要素を考慮しているに過ぎないようです。
自分の夫や妻が他の異性と外で手をつないでデートをしていたら,かなりショックでしょうし,婚姻共同生活の維持を妨げるような行為,といっても良いと思われますが,裁判例上は,その手を繋ぐ行為やその他の事情から肉体関係があると推認できないと「侵害」とは認められないようです。
つまり,単に手をつないでいるだけでは,肉体関係(やそれに類するもの)があるとまでは認められないため,その他の事情を組み合わせて肉体関係がある,と推認できるかがポイントになります。
3.内緒で密会する行為 ×
配偶者に内緒でご飯に行ったり,デートしたりする行為については,不法行為を構成しないとされています(東京地判平成21年7月16日)。
上記のように,手を繋いで歩くことが侵害行為といえない以上,これが該当しないのは当然でしょう。
4.「あいしてる」「大好きだよ」などの愛情表現を含むメールの送信 △
これについても肯定,否定いずれもあります。
まず,肯定例は「このようなメールは,性交渉の存在自体を直接推認するものではないものの,XがBに好意を抱いており,Aが知らないままBと会っていることを示唆するばかりか,XとBが身体的な接触を持っているような印象を与えるものであり,これをAが読んだ場合,Aらの婚姻生活の平穏を害するようなものというべきである。」としています(東京地判平成24年11月28日)。
他方,否定例は「確かに,性交又は性交類似行為には至らないが,婚姻を破綻に至らせる蓋然性のある他の異性との交流・接触も,当該異性の配偶者の損害賠償請求権を発生させる余地がないとはいえない。しかしながら,私的なメールのやり取りは,たとえ配偶者であっても,発受信者以外の者の目に触れることを通常想定しないものであり,配偶者との間で性的な内容を含む親密なメールのやり取りをしていたことそれ自体を理由とする相手方に対する損害賠償請求は,配偶者や相手方のプライバシーを暴くものであるというべきである。また,XがBに送信したメールの内容に照らしても,Xが,AとBとの婚姻生活を破綻に導くことを殊更意図していたとはいえない。したがって,本件の事実関係の下でのXの行為は,Aの損害賠償請求を正当化するような違法性を有するものではないとみることが相当であり,不法行為の成立を認めることはできない。」としています(東京地判平成25年3月15日)。
これらの裁判例からすると,「手を繋ぐ」という事情と同様で,メールそれ自体をもって「侵害行為」とすることはできず,メールの内容から,肉体関係(あるいは身体的な接触)があったといえるような場合に不法行為となるものと考えられます。
そして,実際,メールの内容から肉体行為があったことが推認されたケースとして,「あの旅は本当に素敵なものでした」とのメール(東京地判平成22年1月28日)等があります。
一般的には,宿泊を伴う旅行や性的交渉の存在を前提とした内容のものが記載されていれば肉体関係の存在が推認されるといえるでしょう。
まとめ
以上からすると,肉体関係(性行為)以外は「侵害行為」と認定されづらい傾向にありますが,それに類似するような行為であっても,婚姻共同生活の維持を妨げるものとして,「侵害行為」とされていることがあり,また,手を繋ぐ行為や親密なメールの内容等から肉体関係があったものと推認できる場合には「侵害行為」とされていることが分かります。
なお,慰謝料額については,また別の機会にお話していきますが,肉体関係(性行為)まで至らない場合だと,慰謝料額は低額にされることが多いです。