不倫によって夫婦が破綻したor破綻していないの違い
不倫・浮気とは?
不貞行為・違法行為
「これじゃ不倫っていえないの?(1)」において,どのような場合であれば(どのような事情があれば)不法行為となるのかについてお話しました。
今回は引き続き,その不法行為の成立要件のお話をしていこうと思います。
今回は②損害の発生という要件についてお話いたします。
損害の発生
不法行為が成立するためには,「侵害行為」によって「損害」が生じることが必要です。
そして,不貞行為の場合は,お金をとられたり,物を壊されたりしているわけではないので,不貞行為をされたことによる精神的苦痛が(主な)損害となります。
より詳しくいえば,「これじゃ不倫っていえないの?(1)」において,夫婦の婚姻共同生活の維持を妨げるような行為が「侵害行為」であるとお話しましたが,その婚姻共同生活が維持できなくなることによる一方配偶者の精神的苦痛が「損害」ということになるでしょう。
典型例は,BとXが不倫(不貞)を行ったために,その後,AB夫婦が離婚に至ってしまったというものです。これは,まさに婚姻共同生活を破壊されてしまったという精神的苦痛があるケースといえます。
もっとも,不倫(不貞)の事実が発覚したとしても,すべてのケースで離婚するわけではありません。単に夫婦の仲が悪くなるだけのケース,別居するケース,円満なままのケース・・・様々あります。では,離婚に至らない場合には,損害が生じたとはいえないのでしょうか。
結論からいえば,離婚に至らないケースでも,婚姻関係の状態が不貞行為開始前よりも不貞行為開始後の方が悪くなっていれば,それにより精神的苦痛を受けていると見られるため,慰謝料請求は認められることになります。
逆に,極めて稀なケースですが,終始円満であったような場合には,不法行為が成立しないものと考えられます。
したがって,配偶者と不倫相手との不貞行為によって夫婦間の婚姻関係に何らかの悪影響を与えていれば,それにより精神的苦痛が生じているといえるため,不倫事案のほとんどの場合において損害はあるものと考えられます。
なお,下級審の裁判例ではありますが,「第三者(X)が配偶者の一方(B)と不貞行為を行った場合には,その結果として婚姻関係が破綻しなかったとしても,他方配偶者の夫又は妻(A)としての権利は侵害されたものとみるべきであるから,他方配偶者(A)は第三者(X)に対して慰謝料を請求し得るものと解するのが相当である(婚姻関係が破綻しなかったという事情は,慰謝料額の算定に当たって考慮すべき事情であるにとどまる。)と述べており(東京地裁平成22年6月10日),そのような考えが取られているものと思われます。
以下,少し具体的にみていきましょう。
①円満状態から離婚するケース
不倫(不貞)が始まるまではAB間の夫婦関係が円満であったのに,不倫(不貞)が行われたことにより離婚することになってしまったというケースです。
これは一番分かりやすいケースで,まさに婚姻共同生活を破壊されているため,損害が生じていることは明らかであるといえます。
②円満状態から夫婦関係が悪化してしまったというケース
不倫(不貞)が始まるまではAB間の夫婦関係が円満であったのに,不倫(不貞)が行われたことにより(離婚までは至っていないものの)夫婦関係がかなり悪化してしまったというケースです。
これについても婚姻関係に悪影響があったことは明らかですから,損害は生じているといえるでしょう。
③もともと悪化しており,それが破綻・離婚に至ったケース
不倫(不貞)が始まる以前からAB間の夫婦関係は悪化しており,不倫(不貞)が行われたことにより,(離婚までは至っていないものの)夫婦関係がかなり悪化してしまったというケースです。
これも,もともと悪化していたとはいえ,破綻・離婚はしていなかったのですから,婚姻関係に悪影響があったといえ,損害があったといえます。
④円満状態が維持されるケース
不倫(不貞)が始まるまではAB間の夫婦関係が円満であり,不倫(不貞)が行われた後も円満な状態が続いているというケースです。
これはかなりレアなケースではありますが,夫婦関係に何ら悪影響がなかったため,損害がないと判断される可能性もあるでしょう。
このように,各ケースによって,悪影響の度合い(結果)は異なります。
この点は,損害の大きさ(精神的苦痛の大きさ)に関わってきますので,慰謝料額の算定において考慮されることになります。一般的には,①が一番高く,②③は①に比べると低くなることが多いです。
因果関係
上記のとおり,「損害の発生」が不法行為成立の要件となりますが,この「損害」は不倫(不貞)と無関係に発生したものではいけません。
すなわち,不法行為が成立するためには,「侵害行為」と「損害の発生」の間に「因果関係」があることが必要となります。「侵害行為」があったことに“よって”「損害」が発生したという関係です。
この「因果関係」の考え方は,単に「侵害行為がなかったら損害が発生しない=因果関係がある」という考え方(条件関係)ではなく,「相当因果関係」(その考え方を前提として,社会通念上相当な範囲に限定する)という考え方が採られているのですが,この点はまた違う機会に詳しくお話したいと思います。
現段階では,「侵害行為」と「損害の発生」の間に「因果関係」が必要という点を理解していただければと思います。
まとめ
今回は主に「損害の発生」の要件についてお話ししましたが,夫婦間の婚姻共同生活の維持を妨げるような行為によって夫婦関係に何らかの悪影響があった場合には,それによってAに精神的苦痛が生じているといえますから,損害が発生したということができます。
不貞行為があった場合に,夫婦関係に何も悪影響がないということはまず考え難いため,ほとんどのケースでは「損害あり」といえると思います。